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学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

ワシントンへの不信と不満

政治論考

以前の記事『今のアメリカの姿』で一度記事にしたが、今日は再びアメリカ大統領選挙を取り上げてみようと思う。以前の記事では、僕はトランプ氏を率直さと愚かさと傲慢さを持った「強いアメリカ」を体現する「アメリカ人らしいアメリカ人」と評した。そして、サンダース氏を社会主義を標榜する「アメリカ人らしからぬアメリカ人」と評した。この背景には「2つの国民」に割れたアメリカの姿があると論じた。

今日の話をする前に、アメリカの共和党と民主党についての知識を確認しておきたい。共和党は伝統的なアメリカの政党で、支持者は白人富裕層である。テレビで見ていても、共和党大会で黒人やヒスパニック系やアジア系を見つけることは難しい。一方の民主党は後からアメリカにやってきた人々の政党で、民主党大会では黒人もヒスパニック系もアジア系も容易に見かける。そもそもオバマ大統領や女性大統領候補、社会主義を標榜する候補がいる時点で、民主党の支持基盤が分かろうというものである。

したがって、共和党は、できるだけ規制をなくして自由に経済活動ができることを望む自由主義である。そして、宗教的には欧州に起源を持つ伝統的な人々なので、キリスト教的で、たとえレイプであろうと妊娠中絶には反対の立場である。そして、キリスト教的に「社会の上層部は貧しい人々に施しを」という隣人愛を持っているので、自由経済活動による格差が生まれても、きちんと富裕層が貧困層をフォローするので問題ないとする。むしろ、フォローできるほど充分に富裕層は稼ぎに稼がなくてはならない。

一方の民主党は、後からアメリカに来た弱者が支持者の中心なので、社会福祉をはじめとする「大きな政府」を容認している。ヒラリー女史が医療保険の導入に精を出したのも、あるいは民主党が同性愛・同性婚や中絶を認めているのも、社会的弱者への政策だからである。だから、古きアメリカを代表する中西部では共和党が強い傾向に、西海岸や東海岸など移民が多い州では民主党が強い傾向にある。

しかし、今日までの4戦の予備選挙を見ていると、ヒラリー女史が苦戦して、ジェブ・ブッシュ氏が撤退した。民主党・共和党それぞれを典型的に体現する候補の落魄ぶりである。ヒラリー女史は、前大統領の妻であり、自身も前国務長官外務大臣)という経歴であり、ジェブ・ブッシュ氏は父と兄が元大統領で、自身もフロリダ州知事という経歴である。いわば両党の本流が零落しているのだ。

勢いに乗る候補の2人は、ともに「外野」である。サンダース氏は社会主義を標榜しているところから民主党の中でもマイナーで、左寄りの政党にあってもかなり左寄りな傍流である。トランプ氏にいたっては、これまで政治に関わったことのない素人であり、数回の倒産と2回の離婚に3回の結婚をしている人物である。いくら民主党と言えどもキリスト教徒が中心のアメリカ社会において、あまり好ましい人物とは映らない。

にもかかわらず、この2人が躍進するのは、従来の「伝統的白人富裕層」とか「移民労働者層」という家族の枠組みではなく、「若年層」という従来の枠組み横断的な階層が出現したことが背景にある。2010年前後からアメリカの中流層が崩壊したとの書籍が次々と出版されたが、「若年層」はおしなべて貧困であり、アメリカン・ドリームはもはや存在しないと論評された。強いアメリカの繁栄を知らないこの「若年層」という「新しい国民」が持つのは、ワシントンへの不信と不満である。既存の政治に対する不信と不満が想定を超える大きさであった。

「若いうちに社会主義にならない者には熱意が足りない。年を取って社会主義になる者には知性が足りない」と、かつてチャーチル元英首相が言ったように、若年層は社会主義に夢を託すし、また大いなる熱意を持つ。この「新しい国民」の熱意と情熱の前に、アメリカの知性がどこまで対応できるかが今後の選挙戦の注目どころになる。

3月1日には「スーパー・チューズデー」が訪れる。スーパー・チューズデーとは予備選挙の中で最も多くの州で投票が行なわれ、一日で最大の代議員数(大統領を選ぶ州の代表者数)を得ることができるアメリカ大統領選挙の山場である。この日が主流派とアウトサイダーの決戦となるだろう。既に共和党ではジェブ・ブッシュ氏が敗退し、民主党ではヒラリー氏がサンダース氏と組み始めているから、事実上のヒラリー女史vsトランプ氏の戦いになる。この戦いの結末は、アメリカが世界最大の経済大国・軍事大国を演じる国際政治においても大きな影響力を及ぼす。

明日がその決戦の日である。