学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる

  なんとも衝撃的なタイトルだが、ドイツを話題の中心として、欧州問題、ウクライナ問題、アメリカとの衝突、ロシアとの関係、フランスの役割、経済・通貨問題を論じている。形式はトッドへのインタビューという形式である。冒頭でトッドが述べているように、きわめて「論争的な言葉遣い」をして、問題を提起している。

トッドは人口統計による定量化と家族構造に基づく分析を専門とていて、「世界の多様性」や「帝国以後」で世界に名を馳せた。僕自身はレヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』に始まる構造主義に触れて以降、家族構成の考察を展開する本が気になって、トッドの「世界の多様性」(共同体システムを分析)に行き着いた経緯を持っている。

トッドは『帝国以後』の上梓以来、「予言者」としての名声を得たが、これは本末転倒である。それ以前の世界観、つまりアメリカ的分析による『文明の衝突』(ハンティントン)を覆し、アメリカという一強時代なのではなく、アメリカもまた凋落過程にあるとした『帝国以後』にフランスやドイツの政治家が反応し、その観察・分析を政策に取り入れていったから、本で書いたことが実現されたのである。こうした経緯はジャック・アタリとも共通する。ある意味で、アメリカに対抗する欧州の姿である。

予言者ではないとはいえ、トッドが欧州思想の中で重要な役割を果たしており、政治家や知識人に対して大きな影響力を有していることに疑いはない。彼に賛成するか反対するかは別にしても、どちらの立場にあれ、彼を無視することはできず、よって、その影響から逃れることはできないであろう。

この意味で、本書は2013年5月~2014年8月の出来事について、トッドがどのように受け止め、どのように発信しているかについて知ることは非常に有意義である。本書はインターネット上で展開された議論が元になっており、その時事性は非常に高い。しかし、われわれ日本人にとって、フランス語など外国語で書かれたサイトにアクセスすることは難が多い。また、本として体系的にまとめられたものではなく、散策的に時事問題を論じているところも、なかなか表出しない貴重なものであろう。約1~2年の遅れではあるが、本書によってその情報に触れられることは意味があると思う。