学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

餅は餅屋へ

池上彰氏が6日、『文春オンライン』(文藝春秋社)のコーナー内で、ニュース番組に芸能人が出演していることについて苦言を呈した。30代会社員から「最近はテレビのワイドショーや報道番組にジャニーズ(事務所所属のアイドル)をはじめ、たくさんの芸能人が出ている。芸能人が報道に大きく関わっていることについて、どう考えているか」という質問が寄せられ、池上氏は、個々の番組の方針についてコメントすべき立場にないと前置きしたうえで、以下のように答えているので、コメントに沿って意見を付していきたい。

「ニュースを伝えたり、解説したり、コメントしたりする役割を芸能人が務めることには違和感を禁じ得ない」と指摘し、「人気タレントが画面に出ていれば視聴率が稼げるだろうという、さもしい発想が透けて見える」と批判。さらに「聞き手に芸能人がいる演出はありだとは思いますが、芸能人がニュースを伝えるのは国際的に見て日本ならではの奇観」とした。

僕自身も、ジャーナリストや元知事などの政治家や元官僚が学問的背景もないのに講師ではなく教授として大学の教壇に立つことに違和感を禁じ得ない。そうした「実務家」が教壇に立てば少子化時代に学生が集まるだろうという、さもしい発想が透けて見えるからだ。「実務家」が専門学校にいるのならばともかく、学問の府に我が物顔でそれらしく時事を語り、論文指導も出来ない様子は奇観である。

「ニュースを伝えるのは現場取材を積み重ねたジャーナリスト。関心のなかった芸能人にカンペを読み上げさせるのは不思議な光景」と、キャスティングに苦言を呈しつつ、「日本のテレビ界はプロの仕事はプロに任せるというルールが確立していない。ニュースはニュースのプロが伝えるべきだと思っている」と結論づけた。

まさしく大学で学問を教えるのは学問的修行を積んだ学者。学問的系統も持たずに刹那的な現場の連続に接したジャーナリストがコメントを寄せるという講義は不思議な光景である。日本の学府にはプロの仕事はプロに任せるべきだというルールが確立していない。学問は学問のプロが教えるべきである。もちろん、素養や教養として視野を広げるという意味で、学府に現場の情報を入れること自体は賛成である。この意味で、非常勤講師職・常勤講師職がある。講師は教授陣ではない。

ところで、素晴らしいコメントを『文春オンライン』に残した池上氏の経歴を最後に紹介しておこう。出典はWikipediaである。

1973年3月 - 慶應義塾大学経済学部卒業。
1973年4月 - NHKに記者として入局。
2005年3月 - 定年を待たずNHKを退職。以後、フリーランスジャーナリスト
2009年4月 - 信州大学経済学部特任教授に就任。
2012年2月 - 東京工業大学リベラルアーツセンター専任教授に就任。
2014年4月 - 愛知学院大学経済学部特任教授日本大学文理学部客員教授に就任。
2015年4月 - 名城大学特別講師に就任。
2016年3月 - 東京工業大学定年退職。
2016年4月 - 名城大学教授、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特命教授、立教大学グローバル教育センター客員教授に就任。