学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

就職活動の勘どころ

昨日の記事への補足を少ししたいと思います。昨日の「本当の自分」=「理想の自分」は、就職活動で言えば、「就職したらどんな職員になりたいですか?」や「理想の社会人像はどんなものですか?」という質問に対応するし、志望動機に結び付けることもできます。そして、既に社会人の人にとっては、これは入社時の初心に当たるわけです。遠い昔に就職した人も、あの時の自分は…と振り返るキッカケです。

就職活動は、企業が労働者を選ぶことと思われがちですが、実際には労働者が企業を選ぶ機会でもあります。日本にはおよそ421万社の企業があります。官公庁や地方自治体、その他の団体も含めると、422万を超えてきます。しかし、一人の学生が就職活動をするのは多くても100社以内でしょう。ものすごい倍率で就職先を選んでいるのです。そして、この選択するというところで、篩にかけるモノサシ、基準が必要になり、そのモノサシが「自分」なんですね。だから、最初に「理想の自分像」を見つめることになる。

企業の側からしても、「理想の企業像」を学生に伝え、モットーや社訓、社風を知ってもらおうと必死になります。いわば学生が面接官になって企業に面接を受けてもらうわけですが、これが「説明会」です。企業が用意するエントリーシートないしは面接カードは、パンフレットなどの説明会資料です。学生は説明会に足を運び、企業の話を聴き、企業の様子をうかがい、ここだと思うものを見つけてくるわけですね。選ぶ側と選ばれる側という上下関係ではなく、学生と企業は最適のパートナーを探す関係にあります。

だから、就職活動の要点は、「マッチング」にあります。自分と相手がいかに気が合うのか、同じ夢や目標に向かって歩めるのか、自分は企業にどう貢献し、企業は自分にどう貢献してくれるのかを確認していかなければなりません。「貢献」とは、お互いの夢や目標、成長などにおいて、お互いがお互いに何を提供し、何を提供されるのかということです。この「マッチング」に失敗すると、早い時期での離職へと繋がりやすくなります。3年以内の離職率が32%前後(大卒)で推移していますが、離職にまで至らなくとも生活のために辞めるに辞められず続けている人も含めると、半数を超えると思われます。

企業にとっては説明会の開催は毎年のことで、長年継続して熟成してきたモットーや社訓があるから、それを伝えていくことは、そんなに苦ではありません。もちろん、その起業や創業期においては、とても苦労したであろうし、確立していくことも大変だったと思います。しかし、学生にとっては生まれて初めてのことです。今まで考えたこともなかったことを考えなくてはなりません。いわば、個人が「社会人」として起業し、創業していく「生みの苦しみ」なわけで、企業も初めての時はありました。

だから、「あなたのモットーは?」「あなたの座右の銘は?」「尊敬している人は?」「最近、気になったニュースは?」「困難に直面した経験と、その克服法は?」「ストレス解消法は?」といった質問をぶつけられても戸惑います。そうしたことを体験していても、経験的に整理し、考察や分析を深めて生きてきたわけではないからです。極端なところでは、小学校から高校までは学力や偏差値といったモノサシで、親や教師ないしは社会によって敷かれたレールの上を考えなしに走ってきているでしょう。大学の学部選びにおいて、初めて自分の気持ちに向き合ったかもしれません。

しかし、逆に考えれば、こうした質問は、「理想の自分」を見つけるための、これからの人生を歩んでいくためのモノサシを知る・作るためのテンプレート集でもあります。これらにつぶさに答えていけば、手順を追って自分を知ることになります。そうしたものに対応する過去の経験がなくて答えられないというのは、その人がサボってきたということであり、ツケでもあります。でも、今からでも遅いということはありません。経験していなければ経験してしまえばいいからです。

この意味で、大学入学時に出口にある就職活動の問答集に触れ、その問答に応えられるような経験を積んでいく大学生活を送れると理想的です。これは、就職活動を入学時から始め、大学を学問の場ではなく就職予備校に変えてしまうように聞こえてしまうかもしれませんが、そうではありません。そのような批判は本末転倒です。本来は大学生活でこのように過ごし、学び、成長したという成果を発表する場が就職活動なのです。ところが、どのように過ごし、何を学び、どう成長していけばいいのか分からない。だから、それを確認しようとする問答は、その指針になりうるという話です。

そして、この過ごし、学び、成長したということを学問を通じて行なう場所が、モラトリアムとしての大学生活なのですから、必要最低限の生きる術ではなく、知識や教養を存分に身に付けて、「この俺を採用しないと損だぞ」と胸を張って採用の際に主張し、卒業後には身に付けたものを活用して社会に貢献していってほしいと願っています。卒業後は、実際の自己実現の場です。計画した初心を忘れることなく、貫徹してほしいと願っています。