学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

今のアメリカの姿

事実上のアメリカ大統領選挙が、アイオワ州から始まる。今日はそれについてのお話。

今、トランプ氏が高い人気を誇っている。それはトランプ氏がタブーをものともせぬ率直な物言いで強いアメリカを標榜しているからだ。しかし、同時にその率直さは愚かにもなるし、他者に対して傲慢にもなる。語弊を承知であえて言えば、だから、彼は極めてアメリカらしい。アメリカを体現しているかのようである。しかし、こういうポピュリストはアメリカでは息は長くない。1992年および1996年大統領選挙において善戦したロス・ペロー氏と同じような終幕を迎えることと予想している。

今回の大統領選挙には、もう一人、注目を浴びている人がいる。無所属ながら民主党のバーニー・サンダース上院議員である。資本主義の大本営であるアメリカにおいて、自身を社会主義者だと公言して憚らない。トランプ氏がアメリカらしい典型とすれば、サンダース上院議員はまったく毛色の異なるアメリカらしからぬアメリカ人である。しかし、サンダース氏が正統派の本命ヒラリー・クリントンに肉薄しているのは、2004年にサミュエル・ハンティントン教授が著書『分断されるアメリカ』で予測したような世界が到来しているからのように思える。それに、初戦のアイオワおよびニュー・ハンプシャーはオール白人だからサンダース氏は健闘するだろうが、そこから先は真っ暗である。

ある意味で、トランプ氏とサンダース氏は、今のアメリカの姿である。トランプ氏が「かつてのアメリカ」を標榜しているなら、サンダース氏は「これからのアメリカ」を標榜している。貧富の差が極端なまでに広がり、中間層がいなくなったアメリカにおいて、「昔のようなアメリカ」を復元して中間層を盛り返し、栄光を再び手にしようとするか、中間層なき貧困層を救出する「これからのアメリカ」を創出しようとするのかという違いだけで、両者それぞれにアメリカを憂い、それぞれに支持者を得ている。

とはいえ、おそらくは、この2人はどちらも大統領には選出されないだろう。アメリカの民主主義は腐れりといえども鯛であり、差別を始めとして物議を呼び起こすような極端な発言を繰り返すこの2人を選ぶことはないだろう。この2人の役割は、いわばガス抜きであり、この討論の過程を経て、アメリカという国が、自らの抱える問題を直視する。1年近くにわたるアメリカの大統領選挙とは、政治家と国民がアメリカに向き合う期間なのである。そして、これがアメリカをして民主主義を成熟したものにさせているものと思う。

だから、僕の予想は正統派本流のヒラリー・クリントンである。メール問題などマイナス要因を抱えながらも、本命であると思う。クリントン女史は、オバマ大統領のようには若者や黒人の票を動員できないが、オバマ大統領よりは白人ブルーカラーを動員できるだろう。実際にその支持を繋ぎとめるために反TPPを明確に打ち出してもいる。クリントン女史の成功のカギは、白人ブルーカラーを確実に捉え、かつ、トランプ氏やサンダース氏のポピュリズムの波に飲み込まれない確固たる正統派を貫くことにあると思う。

ちなみに、今のアメリカは良い時期にあるとは言えない。こういうときには、アメリカに白人男性大統領は生まれないと僕は思っている。白人優位・キリスト教優位を疑おうともしない白人男性は、こういうときには損をするので出てくることなしに傍観しているものである。その隙をついて、アメリカ史上初の黒人大統領や女性大統領が生まれてくるのだと感じている。これは、根拠のない感想程度に聞いてもらえればと思う。それに、この段落こそが差別的で物議を醸し出しそうな発言である。あらかじめ、謝罪をしておきたい。