学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

安定的な皇位の継承について

元号も「令和」に改まり、剣璽等承継の儀や即位後朝見の儀などの即位に伴う一連の儀式も始まった。テレビで映像を見ていると、天皇陛下の脇侍として、秋篠宮文仁親王殿下、常陸宮正仁親王殿下のお二人しかおられなかった。昭和から平成への御代代わりでは6人が揃っていたことからすると、どこかしら寂しいものを感じてしまった。いよいよ皇位継承の安定性に視覚的にも危機感を覚えるようになってきた。

ここで女性天皇ないし女系天皇に関する議論が活発化してきた。「女性」なのか「女系」なのかについての違いはしきりにメディアで耳にするようになり、一般的な理解も進んできたように感じる。戦後の「象徴天皇」の地位は、憲法により「日本国民の総意」に基づくので、その「総意」が奈辺にありやと議論を進めていくことはよいことであろうと思う。そこで、当ブログに「総意」形成への影響力がないことは百も承知でありながらも、果敢にこの議論に参加したいと思う。

まず、21世紀にあって男系男子に限るのは時代錯誤であり、男女平等であるべきという議論について、そうであるあらば男女平等に限らず、職業選択の自由、居住転居の自由、投票や立候補に関する選挙権、学問の自由(政治系は学ばないよう調整してきた)、表現の自由ストライキなどを含む労働権はもちろん、働き方改革を含めた「就業時間や就業規則」、「定年」や「残業規制」もきちんと認めなければならない。男女平等に並ぶ基本的人権である。

男女平等論から皇位の継承を語る場合には、他の基本的人権も同時に語らなければならないと思うし、語らないならば、なぜ他の人権を排除するかについての合理的説明が必要である。そして、僕個人としては、男女平等論から話を進める場合、やがては他の人権が俎上に昇る日も来るだろうと思うので、この論調での「女性」ないし「女系」の即位は、天皇制の崩壊に容易に繋がるだろうと思う。

ここで、「女性」か「女系」かという議論になれば、「女性天皇」には控えめに賛成であるが、「女系天皇」には反対である。控えめに賛成というのは、男系男子が未成年あるいはなんらかの不都合がある場合に限って即位できるという意味で、皇位継承順位は男系男子の次になる。現状でいえば、秋篠宮文仁親王殿下、悠仁親王殿下、常陸宮正仁親王殿下に続いて愛子内親王殿下、眞子内親王殿下、佳子内親王殿下、三笠宮系の2女王、高円宮系の1女王である。

「男系女性天皇」の子どもを即位させてあげたいというのは人の情というものだと思うが、こと皇位に限っては割り切って考えるべきと思う。これは「皇位」というそのものが「歴史的堆積物」だからである。21世紀の考え方を安易に持ち込んではならず、あくまでも「文化財保存」の観点から語るべきと思うからだ。たとえば、姫路城を鉄筋コンクリートで頑丈に作り、石垣を護岸工事のコンクリートのようなもので堅め、エスカレーターやエレベーターを取り付け、安全性やバリアフリーに配慮した建築物に補修した場合、果たしてそれは世界遺産ないし文化財と言えるであろうかということと同じである。国宝、重要文化財、重要有形民俗文化財特別史跡名勝天然記念物または史跡名勝天然記念物は、建築基準法の枠外にある(建築基準法第3条第1項第1号)のと同じ理屈が、「皇室」にも適用されるものと思う。

そもそも「皇位」というものが歴史的遺物であり、男女平等以前に人は平等という近代社会の理念から外れているのである。これは、憲法を見ても明らかで、憲法前近代的なものと近代とを苦心の末に融合させていると思う。すなわち、第1章で天皇について記述し、第3章で国民について記述している。国民について定義する前にまず天皇について定義し、これを国民から外しているのである。だから、皇室の人権は著しい制限が可能になっている。ここに国民が持つ基本的人権のうち、「男女平等」だけを入れることがどれだけ不合理か分かろうというものである。

過去の例を見れば、皇后(正妻)の産んだ子が天皇になることのほうが少なく、側室が産んだ子どもが天皇に即位した例も多いわけで、安定的に男系男子誕生を図るには、1人の女性(皇后・正妻)だけでは、女性の負担も大きく、不都合であろう。とはいえ、一夫多妻制にすれば国民の理解が得られず、国民との乖離を引き起こし、国民の総意による皇室の存在は危うくなるだろう。側室制度を「人倫に悖る」と評した昭和天皇のご遺志に加えて、「不倫」が社会的に非難される現代にあって、これは採るべき選択ではない。そこで、21世紀の技術との融合である。

人工授精による皇嗣の誕生を試みることはどうであろうか。皇室が率先して不妊治療に先鞭を付けることは、不妊に悩む人々に大きな光を与えることにならないだろうか。おそらくは、皇室がやるとなれば人工授精技術の飛躍的な向上が望めるであろうし、費用も安くなるだろうし、社会的なハードルも低くなることだろう。人口減少社会にあって精子バンクが拡充し、シングルマザーを支える制度も充実していけばよい。それこそ「伝統的」な「自然妊娠が良い」と唱える「男女平等論者」は支離滅裂だし、男系男子にこだわる保守派にとっても問題はない。

四方丸く収まる案だと思うのだが、いかがだろうか。