学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

歴史はイギリスから始まる

アメリカ大統領選挙が予想外な結果に終わり、驚きを持ってその結果を受け止めた。もっとも、僕の知性が愚かだから驚きであったのかもしれない。

今年9月27日のブログ記事「米国の大統領選」の中で、長い大統領選は候補者も国民も双方が国政について学び、考えるよい機会だと述べた。その文脈では、時間をかけて多角的に冷静に考えられるので、最適な答えを見い出すと、アメリカの知性に信頼と期待を寄せているというような文章になっている。つまりは、ヒラリーが当選するだろうと予測していた。

今日発売のThe Economistによると、ヒラリーは伝統的な支配階層に属するがゆえに負けたとある。ちなみに、The Economist紙も同じエリート層に属すると自虐的に書いているところは面白い。そして、その指摘するところは、戦後に築き上げてきた自由貿易と西側自由民主義体制への、歴史の再襲である。

とするならば、この労働者階級と支配者(富裕者)階級の政治意識の乖離は、今年6月の英国のEU離脱から始まっていることになる。マスコミもトランプ氏の攻撃対象となり(ヒラリー支持57社に対してトランプ支持2社)、既得権益者としてのマスコミの国民との乖離(信用されていない度合い)という視点から見れば、我が国の都知事選挙でも同様であった。

フランス人のエマニュエル・トッド氏の歴史観に拠れば、いわゆるアングロ・サクソン秩序が挑戦を受けているとなろう。自由と民主主義を国是として掲げるアメリカにおいて、社会主義を公然と標榜するサンダーズ候補が登場したことからも、既存の体制が試練を受けていることを読み取れる。代表制民主主義の仕組みを生み出し、産業革命を最初に開始した英国は、各時代を切り拓いてきたが、その終焉においても真っ先に幕を切ったということになるのだろうか。

それにしても、アングロ・サクソン・システムが、英米というアングロ・サクソンの国々から崩壊を始めたことは興味深い現象である。とはいえ、200年以上にわたって世界のスタンダードとして通用してきたモノサシが使い物にならなくなる。今の我々は価値観の定まらない非常に不安定な地表に立っている。さまざまな激動がある中で、価値観の激動ほど困難なものはあるまい。今回のアメリカ大統領選挙は、従来の価値観に囚われることなく、社会現象を見つめていきたいと反省する機会となった。