学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

TPPの陰に

環太平洋戦略的経済連携協定(Trans-Pacific Strategic Economic Partnership Agreement)、通称TPPが昨日、大筋合意した。これで世界のGDPの4割に相当する地域が自由貿易圏を形成することとなった。農業分野で日本が悲鳴を上げると報道されているが、僕は保険などの金融分野も同様に悲鳴を上げる事態だと思っている。もちろん、自動車部品などの日本に有利な面もある。

TPPはEPA;経済連携協定(Economic Partnership Agreement)の一種であり、EPAはFTA;自由貿易協定(Free Trade Agreement)の発展版である。つまり、FTAは関税撤廃などの通商上の障壁の除去を主題とするが、EPAはそれに加えて経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約である。そして、TPPはEPAの地域限定版である。経済分野に限らず、政治分野にまで拡大したものがEUであると解釈していれば、大筋で間違いはない。

現状の報道では、農業や自動車など物質的な目に見える部分での影響を述べているものがほとんどであるが、アメリカの巨大資本を考えれば、サービス業での影響のほうがより大きいと思う。しかし、同じくらい重要なニュースが昨日、流れた。TPP妥結やノーベル医学・生理学賞受賞ニュースで陰に追いやられているが、看過できない重大事件だ。

経済協力開発機構OECD)は5日、多国籍企業の税逃れを防ぐ新たなルールを発表した。稼いだ国できちんと課税し、タックスヘイブン租税回避地)を使った税逃れを食い止める。20カ国・地域(G20)も承認する見通しで、合計44カ国が2016年から国内法の整備を本格的に始める。新ルールの適用で欧米企業を中心に負担が増えるケースもありそうだ。

新ルールでは、タックスヘイブンの子会社で稼いだ利益を親会社の利益と見なして課税できるようにする。ネット通販の会社には、配送用の倉庫がある国々がそ れぞれ課税できるようにする。企業が本国と進出先で二重に課税された場合、両国の協議で2年を目安に問題の解決をめざす。

 ここで示されている発想は、トマ・ピケティの書いた「21世紀の資本」で述べられているグローバル課税制度に近い。執筆時にピケティは実現性が低い無謀な提案と述べていたが、44カ国とはいえ、実施に向けて動き始めた。多国籍企業の多い日本にとって、この企業負担増は無視できるものではない。TPPによる黒船来襲への戦いと同時に、税負担増という事態が同時に起きることになる。まだ第一報の段階ではあるが、今後とも注視していかなければならないだろう。