学際知の地平

ポストモダン・ポストナショナル・ポストグーテンベルク・ポストヒューマンな時代に不気味な民主主義を考える

アメリカ流『国民の育て方』

アメリカ大統領選挙のニュースが入り始めた。これから来年にかけて盛り上がりを見せてくるだろう。前々回選挙では,アメリカもずいぶんと寛容になったものだと感じた。移民で成立する人工国家は,民主共和両党ともに世界的には保守的であり,米国民も保守的傾向が強い。そんな中からアメリカが黒人大統領を選んだことは歴史的出来事だった。このこと自体はアメリカではタブーかもしれないが,事実である。

そして,今回は,諸外国に後れは取っているものの,初の女性大統領が生まれるかどうかに僕自身は注目している。英国のサッチャー元首相,ドイツのメルケル首相に次ぐような,主要国の「強い女性リーダー」が新たに誕生するのかどうか,気になっている。もちろん,当のアメリカにおいては男性か女性か,白人かどうかは本質的な問題には見られていないだろう。政策本位で検討し,選んだら,その実行者がたまたま女性だったという程度の認識に過ぎないかもしれない。

今後のスケジュールは以下のようである。

 

2016年

 7月18-21日:共和党全国大会
 7月25-28日:民主党全国大会
 11月8日:一般有権者による投票及び開票
 12月中旬:選挙人による投票

 

2017年

 1月上旬:大統領および副大統領当選者が正式決定。
 1月20日:大統領就任式

 

最近,私用メール・アドレスを公務で使用していた件を巡って,ヒラリー・クリントン女史の人気に陰りが出始めている。まだ期間的には余裕があるが,どのように挽回していくかを追いかけていきたい。アメリカは実務能力を中心に評価する傾向があるため,この公私混同は国家機密管理という面でも大きなマイナスであるから,これをどのように克服するかは興味の湧くところである。

一方で,なにかと物議を醸しているトランプ氏であるが,僕の中では1992年のロス・ペロー候補とイメージが重なる。アメリカの世論調査を見ると,現職の政治家に対する不満が高まっており,そうした民衆の不満を一手に引き受けて派手に過激なパフォーマンスをしている点において,である。その後のロス・ペロー氏のような失速を経験するのか,見事に民衆の不満を結集して大統領という結実を得るのか,ここも注目である。

アメリカの大統領選挙は長いから,現状はいかようにも変化する。上記二人に限らず,何が起きるか,長い道程の出来事を推し量ることはできない。劇的な状況変化もいくらでもありうる。

ところで,その長期間の選挙期間を通じて,アメリカ国民は自国の政治を学び,課題を知り,討論を通して解決策を検討していく。この点では素晴らしい制度であると思う。イギリスでは,「国民が自由なのは選挙の間だけ」と揶揄されてしまうが,アメリカではその選挙期間が長い分,国民は自由を享受している。

そして,こうした運動そのものが民主主義の学校として米国民を育てているのだと思う。アメリカ大統領の影響力は国際的にも大きく,世界的イベントであるということからしても,この盛り上がりは非常にうらやましい。日本では選挙は短く,なんの具体性もなく,候補者の知性を確かめる間もなく,選挙がイメージ先行で終わってしまう。郵政選挙のように,単一問題で全体を決することもある。民主主義を根付かせるためには前途多難である。